※本ブログの問題は一般社団法人日本ソムリエ協会が発行している「日本ソムリエ協会教本(2020)」をもとにしています。
ソムリエ・ワインエキスパート試験対策
本記事では、ソムリエ・ワインエキスパート試験にて出題されそうな問題について小テスト形式でご紹介します。何度も問題を繰り返すことで、身についていくと思いますので、コツコツと一つずつクリアしていきましょう。また、選択肢に表示されている単語で、知らない単語などがあればそちらもチェックしておきましょう。
今回は英国です。英国はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの構成国が連合した形式を取っています。日本では「イギリス」というと「イングランド」と混同される事もあるという事で、ソムリエ教本では「英国」と表記しています。伝統や地域の枠組みにとらわれず自由な試みが行われており、「多様性」を生んでいます。
英国は高緯度で冷涼な気候ですが、南部では大西洋を英国南岸へ向かう暖流の影響でブドウ栽培が可能です。ワインの種類別ではスパークリングワインが約7割(69%)、スティルワインが約3割(31%)とスパークリングワインの割合が非常に多い事が特徴です。
英国のポイント
・スパークリングワインとブドウ品種(シャンパーニュ品種3種)をチェックする
・ワイン法:イングリッシュワイン、英国ワイン、ブリティッシュワインの違いを確認しておく
英国のワインはスパークリングワインが主流である事もあり、フランスのシャンパーニュを意識したワイン造りが行われています。そこに関連してブドウ品種も覚えましょう。※シャンパーニュの復習にもなりますね。
また、後述するイングリッシュワイン、英国ワイン(Wine of United Kingdom)、ブリティッシュワインの違いは意識しておいてください。
気候風土
英国は北緯49度から61度に位置(ワイン産地ではなく国土全体の緯度)しており、ワイン生産国の中では最も北寄りといえるでしょう。メキシコ湾から大西洋を東向きに流れる暖流「メキシコ湾流」の影響で英国南部は海洋性温帯気候です。また、温暖化でブドウ栽培可能地域も広がっています。一方で、遅霜や多雨などの病害も増えているそうです。
英国ワインの歴史
紀元前1世紀頃にワインを好むベルガエ人が英国南東部に進出した際にワインを持ち込んだと考えられています。6世紀末にキリスト教が広まると修道院でブドウ栽培とワイン醸造が行われるようになります。
1154年、イングランド王に即位したヘンリー2世は、アキテーヌ女公アリエノールと結婚していた事から、現在のフランス西部と英国全体を占める領地を保有する事になります。そのため、フランス西部からボルドーなどのワインが英国へと盛んに供給されます。その後、「小氷期」と呼ばれる気温の低下やペストの流行など様々な理由からブドウ栽培がほとんど行われなくなります。
1703年にポルトガルとメシュエン条約を結ぶ事でポルトガルワインの輸入関税が下がったこともあり、ポルトガルワインが広まります。
1945年にはレイ・ブロッグが民間のブドウ栽培試験場を創設し、25年間で600品種が試験栽培されました。ここで選抜された苗を1952年に植樹したのが商業的ワイナリーの先駆けとなった「ハンブルドン」でした。他にも相次いでワイナリーが設立されていきます。その後、ロンドンが「ワイン流通業界の世界的中心地」という地位を不動のものにします。また、業界で専門家の資格として最も尊重される「マスターオブワイン(MW)」や「マスターソムリエ(MS)」も創設されました。
1990年代前半からは共同組合が多く設立されます。安価なワインを生産するだけでなく単一畑ワインなどの上級ワインも生産します。同時期には黒ブドウの栽培と赤やロゼの生産も増えると共に、スパークリングワインも高い注目を集めるようになりました。
英国の特徴的なブドウ品種
以前は冷涼な気候に対応できるよう、ハイブリッドやドイツ系交配種など寒冷地向けの白ブドウ品種が主流でした。
しかしながら、スパークリングワインの生産量増加に伴い、シャンパーニュの主要品種であるピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエが増加し、現在では圧倒的上位につけています。2018年時点では、1位「ピノ・ノワール」、2位「シャルドネ」、3位「ピノ・ムニエ」とそのままです。シャンパーニュと同様「白亜土壌」の地層にも恵まれているため、シャンパーニュにならったスパークリングワインを造ることができるようです。※とは言っても白亜の他に花崗岩、砂利、石灰岩などもみられ多様な環境ではあります
英国のワイン法
英国は原則としてEUワイン法を基本として場合によって独自の解釈と運用がなされています。※EU離脱によって今後どうなるかはわかりませんが・・・。
2011年に「イングランド」と「ウェールズ」という地域表示を保護するワイン法が導入されました。高品質農産物のカテゴリー「原産地呼称保護(PDO)」と地域農産物のカテゴリー「地理的表示保護(PGI)」で、スティルワインとスパークリングそれぞれで定められた要件を満たしたものが認定されています。
PDO(原産地呼称保護)
現在、4種類のPDOカテゴリが認められています。
イングリッシュ・ワイン
イングランドで収穫されたブドウのみで造ったワインです。最大収量は80hL/ha。使用可能な品種のリストが定められています。スパークリングワインについてはトラディショナル方式で最低9か月は澱と共に瓶内熟成が必要です。
ウェルシュ・ワイン
ウェールズで収穫されたブドウのみで造ったワインです。最大収量は80hL/ha。使用可能な品種のリストが定められています。スパークリングワインについてはトラディショナル方式で最低9か月は澱と共に瓶内熟成が必要です。
サセックス・ワイン
2017年に州規模のPDOとして認定された、イングランドのサセックス地方で収穫されたブドウのみで造ったワインです。スティルワインは赤・ロゼ・白、スパークリングワインは白とロゼが含まれます。最大収量は12t/haで手作業で収穫する必要ありです。使用可能な品種のリストが定められています。スパークリングワインについてはトラディショナル方式で、最低12か月は澱と共に瓶内熟成、澱抜き後の瓶熟成とあわせて最低15ヶ月の熟成期間を取ります。官能検査も課されており、表示ビンテージのブドウを最低85%使用する必要ありです。
ダーニボール・ワイン
2015年にPDOに認定されました。別名ダーニボール・バッカス・ワイン。イングランドのコーンウォール州に位置する生産者キャメル・ヴァレー・ヴィンヤードが単独所有する面積5haの畑がダーニボールです。ここで栽培されたブドウのみを使用した辛口白のスティルワインです。使用品種はバッカスのみです。最大収量は8t/haで手作業で収穫する必要ありです。
なお、各カテゴリの表示は以下のようになります。
・「それぞれの地域の見出しの名称」
または
・「ワイン」+「イングランド(またはウェールズ)で製造 or 産品」
PGI(地理的表示保護)
「イングランド」と「ウェールズ」のいずれかで収穫されたブドウのみ、または「他の英国の地域」で収穫されたブドウを15%まで加えて造ったワインです。※つまり、85%以上はイングランドかウェールズのブドウである必要があるという事です。
最大収量は100hL/ha(PDOと違いますね)。スパークリングワインはトラディショナル方式で最低9か月は澱と共に瓶内熟成が必要です。使用品種リストが定められています。
表示は以下のようになります。
・「イングリッシュ(またはウェルシュ)・リージョナル・ワイン」
または
・「リージョナル・ワイン」+「イングランド(またはウェールズ)で製造 or 産品」
WIne(ワイン)
英国以外のEU加盟国産ブドウを原料にして英国で造ったワインは「欧州連合ワイン」「(国名)産ブドウを用いて英国で造られたワイン」といった表示が可能です。また、英国以外のEU加盟国産ワインをブレンドして英国で造ったワインは「欧州連合ワイン」「欧州連合の異なる国々で造られたワインのブレンド」などと表示されます。
一方、英国で英国産ブドウのみを使用して造ったワインは以下のように表示されます
・「英国ワイン(Wine of United Kingdom)」
または
・「ワイン」+「英国で製造(または英国の産品)」
※後述する「ブリティッシュワイン」との違いに注意しましょう。
伝統的表現として認められている呼称
ブリティッシュ・ワイン
輸入ブドウや濃縮ブドウ果汁などを原料として英国で造られた酒類を示します。英国産ブドウのみを利用したものではないので注意してください。価格・品質ともに水準は低いです。伝統的に多かったのは「ブリティッシュ・シェリー」と呼ばれる残糖分やアルコール度数が高いスタイルでしたが、最近は辛口に仕上げてスーパーなどで安売りされるものも増えているそうです。
英国の全体像
英国の中でもワイン生産が盛んである「イングランド」の行政地域は9つのリージョン(地方)内でカウンティ(州)に分かれています。
州別のブドウ栽培面積(2015年)では1位「ケント」、2位「ウエスト・サセックス」、3位「ハンプシャー」、4位「イースト・サセックス」です。サセックスとハンプシャーは英国で最も日照が豊かな地域です。温暖な一方でブドウ生育期の降雨は少ないようです。
第65回小テスト:英国
第65回:英国
第65回:英国

最後に
イギリスでは温暖化の影響もあってブドウ栽培地域も近年広がっており、スパークリングワインが国際的にも高い評価を得てきています。ソムリエ・ワインエキスパート試験でもワイン法を含めて詳しく紹介されていますので、問題を解きながら少しずつ覚えていきましょう。
いよいよ次回から日本です。ここまで小テストをこなしながらかなりの産地や用語を覚えてきたかと思いますが、あと少しの所まで来ています。
おススメ関連記事